はじめに
受託者(信託された財産を預かり、管理する人)は、受託者個人の財産とはきっちり分けて、信託財産を管理する義務があります。=分別管理義務
では、どのように分別管理をしたらよいのでしょうか。
簡単に説明すると、信託法で下記のように定められています。
- 登記・登録ができる財産:不動産であれば、「信託登記」を行う
- 金銭以外の動産:有価証券などであれば、外形上区別ができる状態にして保管
- 金銭:計算方法や額を明らかにして管理
- 法務省令で定める財産:当該財産を適切に分別して管理する方法として法務省令で定めるもの
よく、「金銭の管理をするためには、信託口口座を作らないといけないけど、銀行が作ってくれないんでしょ?」とご質問されますが、実は信託法上、信託口口座が必須ではありません。(信託口口座を作れたほうが、メリットは大きいと考えられる。)
そこで、受託者個人の財産とは分け、計算方法や額を明らかにして管理ができるように、受託者の個人名義で新しく開設した口座(=信託専用口座)を、信託契約書に口座名義・口座番号当等を記載し特定できるようにして、信託契約を開始することが多いです。
信託専用口座のメリット
受託者となる方が、新しく通常の口座を作るときと同じ要領で口座開設をするので、開設までにそれほど時間を要しない。
信託専用口座のデメリット
信託契約書(公正証書で作成)には、信託専用口座として口座名義・口座番号を記載し、第三者に対し信託のための口座であることを主張できるようにしていますが、金融機関では「受託者個人の口座」として扱われています。
つまり、受託者が信託期間中に死亡した場合や、受託者個人に差押えがあった場合などにこの、信託専用口座に預金されているお金もおろせなくなる事態が避けられません。
受託者が死亡した場合
信託専用口座は受託者名義の個人の口座として金融機関では扱われているので、まずは、相続預金として受託者の相続人が預金をおろすことになります。後継受託者(受託者の相続人ではない場合)がこの手続きを行うことはできません。
しかし、信託専用口座に預金されている金銭は信託財産ですので、受託者の相続財産ではありません。後継受託者は信託専用口座に預金されていた金銭の引き渡しを、相続人に対し求めます。
受託者個人に差押えがあった場合
信託専用口座は受託者名義の個人の口座として金融機関では扱われているので、債権者が受託者個人の差押えを実行した場合、信託専用口座も凍結される可能性があります。その場合、債権者に信託専用口座の金銭は信託財産であることを主張し、第三者の異議申立てが必要となります。
信託口口座のメリット
信託口口座は金融機関によって異なることもありますが、一般的に「委託者●受託者■信託口」といった、信託財産を管理するための口座であることが分かるような名義で作成されます。信託口口座に入金された金銭は、委託者のものでもないし受託者のものでもなく、信託財産を管理するための口座として金融機関が取り扱います。
つまり、信託専用口座でデメリットとしてあげられた、受託者の死亡による口座凍結や受託者個人の差押えがあった場合、この信託口口座では影響がないということです。
信託口口座のデメリット
口座作成に時間がかかる
金融機関に信託契約書案を提出し、金融機関が契約書案のリーガルチェックを行います。このリーガルチェックがスムーズにいかない場合、信託契約書の文案確定ができず、委託者の認知症対策として早急に信託契約を組成したい方にとっては必要以上に時間がかかり、信託開始までに影響が出る可能性があります。
受託者が、信託されたお金を管理するために作る口座とは
信託される金銭についての管理を、信託専用口座か信託口口座でするかは、メリット・デメリットを把握し、お客様のニーズに合ったほうを選択したほうがよいでしょう。
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