相続手続を後回し・放置していると大変ってどういうこと?

「相続」は、お金持ちだけの問題ではなく、誰もが身近で起こる出来事です。
大切な身内が亡くなり、悲しみと向き合う時間を持てぬまま、親族や関係者への連絡、葬儀の準備、あらゆる届出など、やらなければならないことはたくさんあります。葬儀が終わったあとには、気分が落ち込み、なかなか相続手続きを進める気持ちにもなれないこともあるでしょう。
しかし、相続にまつわる手続きは金銭が絡むだけあって、しっかりと行っておかなければ、後々トラブルを生む可能性もあります。先送りにすればするほど、相続関係が複雑化し、それに伴い手続きが煩雑になり、場合によっては、それが相続争いの原因になりかねません。
この誰もが慣れない相続手続きを、もし、放置しているとどうなるのか説明します。

相続手続きの種類・期限

葬儀後に行う相続手続きは、さまざまですが、代表的な手続きは下記のとおりです。

(共通)
遺言書を探す
相続人を調べる
相続財産を調べる
名義変更を行う
各種契約の変更・解約手続きを行う
(必要に応じて行う手続き)
年金の受給停止と未支給分の請求
相続の放棄・限定承認
相続税の申告・納付
遺産分割協議
遺留分侵害額請求

相続手続きには、期限内に進める必要があるものと、期限が定められていないものがあります。しかし、どちらにせよ、放置すると将来的にご自身が損をする可能性がありますので、なるべく早めに進める必要があります。

【相続手続きで、期限がある例】
〇相続放棄、限定承認の手続き:相続が発生したこと(亡くなったこと)を知った日から3か月以内
〇故人の準確定申告:相続が発生したこと(亡くなったこと)を知った日の翌日から4か月以内
〇相続税申告:相続が発生したこと(亡くなったこと)を知った日の翌日から10か月以内
これらの相続手続きは、期限内に進める必要があります。

相続手続きを放置しておくと、どうなる?

相続手続きを放置していると、下記のような可能性が生じます。
①相続の放棄・限定承認ができなくなる
②遺留分侵害額請求ができなくなる
③使途不明金の調査が困難になる
④相続人のうち誰かが亡くなり、相続関係が複雑化する
⑤相続人のうち誰かが、判断能力が著しく低下したいわゆる認知症になった場合、相続手続きがより煩雑なものになる
⑥相続回復請求ができなくなる
⑦相続税を申告しないと、税金が余分にかかったり、刑事罰が科せられる可能性がある

相続の放棄・限定承認ができなくなる

相続財産とは、経済価値があるプラスの財産だけではなく、借入金や亡くなられた方名義の債務、そのほか個人保証や連帯債務などのマイナスの財産も含まれています。
相続においては、相続人の意思で、下記の3つの相続方法から選ぶことができます。
特に、【プラスの財産<マイナスの財産】のケースで、相続手続を後回し・放置していると、相続の放棄や限定承認を選択したくとも選択することができなくなり、これらができない場合は、プラスの財産のみならずマイナスの財産を含めた一切の権利や義務を無制限・無条件に承継を承認することとなります。相続放棄と限定承認については、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から「3か月以内」という期間の定めがあります。
①単純承認…全面的に相続を承認する選択
②相続放棄…被相続人(亡くなった方)の権利や義務を一切承継しないという選択
③限定承認…プラスの財産からマイナスの財産を差し引き、プラスの財産が出た場合は余りのプラスの財産を相続し、マイナスの財産が多い場合については相続人自身の固有財産を持ってマイナスの財産を負担しないという選択

①単純承認
単純承認とは、プラスの相続財産もマイナスの相続財産も全て相続することです。単純承認といっても、何か特別に手続きをする必要はなく、相続放棄も限定承認も期間内に行わない場合や、相続財産を消費した場合などは、全面的に相続を承認したものとして自動的にみなされます。単純承認の場合、プラスの相続財産より、マイナスの相続財産の方が多いときは、相続人の固有の財産で弁済する責任を負うこととなります。
②相続放棄
相続放棄をしようとする場合、相続開始前及び相続開始後に「わたしは相続しない。」と意思表示をするだけでは相続放棄は成立しません。相続発生後に、相続放棄の旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。
相続放棄をした場合、相続放棄をした方は、その相続に関しては、初めから相続人でなかったものとみなされます。
明らかにマイナスの財産が多い場合は、相続放棄を検討する方もおられます。相続放棄には、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から「3か月以内」にする必要があります。相続放棄は、相続人のうち一人でも行うことは可能ですが、相続放棄は、他の相続人の相続分が増えたり、これまで相続人ではなかった人に相続権が移ることもあり、影響が出る親族ともよく相談をする必要があるといえるでしょう。
③限定承認
限定承認は、相続によって得た財産の限度(範囲)内で債務を負担する方法です。例えば、被相続人の財産、預金1,000万円と借金2,000万円を、限定承認すると、最大1,000万円までの範囲で債務を返済することとなります。プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか調査に時間かかり不明な場合に利用されています。相続放棄と同様、相続人が「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から「3か月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。ただし、限定承認は相続人全員が合意している場合にのみ申述することができます。限定承認は手続きが面倒ということもあり、限定承認を選択する方は非常に少ないです。

遺留分侵害額請求ができなくなる

遺留分とは、被相続人(亡くなられた方)の一定範囲の相続人(「遺留分権利者」といいます。)に、最低限取得できるものとして認められている遺産取得割合をいいます。遺留分権利者が、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払を請求する(「遺留分侵害額請求権の行使」といいます。)ことができます。ただし、遺留分を侵害されているからといって、必ず遺留分侵害額請求をしなければならないわけではありません。
遺留分侵害額請求には時効があります。もし、相続手続きを後回し・放置し、時効の期限が過ぎてしまうと、遺留分の請求はできなくなります。その時効とは、「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないとき」「相続開始の時から十年を経過したとき」です。

相続財産調査が困難になる

相続手続を行う際には、まず、どのような相続財産があるのかを調査し、全体を把握する必要がありますが、相続手続を長年後回しにする・放置することによって、相続財産の調査がスムーズにいかない又は調査ができない場合があります。
被相続人が、生前に言っていたよりも少ない預貯金だった場合や、契約している保険会社がどこか不明な場合に、手がかりとなるのは、通帳や、金融機関が発行する取引明細といった記録、他には郵便物です。通帳や郵便物は、被相続人が保管している場合もありますが、見つけられないことや廃棄されていることも多いでしょう。また、使途不明金は、「相続人の一部が、無断で、被相続人の死亡直前に被相続人名義の預貯金口座から金銭を引き出す」「被相続人の死亡後に、被相続人名義の預貯金口座から金銭を引き出す」という例があげられますが、預貯金の引き出しについて、確認をするには、これもまた、被相続人の通帳を確認するか、取引明細を金融機関に発行してもらう方法が手がかりとなります。しかし、取引明細の記録の発行は、金融機関によっても異なりますが、当事務所が開示したことがある金融機関ですと、おおむね現在から10年以内といわれることが多いですので、相続手続を長年放置していると、相続財産の調査は困難を極めます。

相続人のうち誰かが亡くなり、相続関係が複雑化する

日本は、超高齢社会ですから、財産を残す人も、財産を受け取る人も高齢者であるケースがよくあります。相続手続きがなされないまま、時間が経つと、財産を受け取る(相続人)人もが亡くなるケースが発生します。この場合、更に相続人が増えることとなり、その数を増すたびに複雑になっていきます。いざ、相続手続きをしようとするとき、会ったこともない・知らない人と遺産の分け方をどうするべきか話し合いをする必要が出てきます。説明をして同意をしてくれれば問題は起きませんが、相続人間の調整がうまくいかずにトラブルになるケースは少なくはありません。

相続人のうち誰かが、認知症になった場合、相続手続きがより煩雑なものになる

相続人の中に、認知症や知的障がい、精神障がいなどで十分な判断能力がない方がおられる場合は、遺産の分け方を相続人全員で決める遺産分割協議(法律行為)を行うことはできず、遺産分割協議を行ったとしても無効となります。
遺産分割協議を行おうと家庭裁判所に、成年後見人選任の申し立てをして、選任された成年後見人が該当の相続人の代理人として遺産分割協議に参加します。
成年後見人の役割は、“認知症(意思能力がない方)の方の財産を守ること”ですので、遺産分割協議を行う際には、本人の財産(目安:法定相続分)を守るような協議内容にしか応じることができません。例えば、法定相続分よりも少ない取得となる内容の、遺産分割協議に、成年後見人は応じることができません。遺産の大半が、不動産の場合、分割も自由にできず、他の相続人にとっても困ることが多いようです。相続手続きを長年しないでいることによるリスクといえるでしょう。

相続回復請求ができなくなる

相続回復請求とは、実際には相続人ではない者(表見相続人)が、相続人であると詐称し、相続財産を支配・占有している場合、相続人(真正相続人)が、実際には相続人ではない者(表見相続人)から相続財産の返還をするように請求することです。
この相続回復請求権には時効がありますので、相続手続きを長年放置していると、請求権が時効により消滅します。

相続税を申告しないと、税金が余分にかかったり、刑事罰が科せられる可能性がある

相続財産の総額が、遺産にかかる基礎控除額以上の場合は、相続税の申告が必要です。相続税の申告は、相続の発生があったことを知ったときから10か月以内に行う必要があります。もしも、相続税の申告をせず、そのままにしていたり、申告期限を超過した場合は、税金が余分(追徴課税)にかかったり、刑事罰が科せられる可能性があります。
遺産が未分割の時であっても、法定相続分で遺産を取得したものとして、10か月以内に相続税の申告・納付をしなければなりません。
相続財産の総額が、遺産にかかる基礎控除額以下の場合は、相続税は課税されませんし、申告も不要です。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

名義変更をしないと、どうなる?

被相続人(亡くなられた方)の財産について、遺言又は遺産分割協議により、誰に何が相続されるかが決まっていても、必要な名義変更をせずに長い期間、放置してしまうケースがあります。
よくある理由は、「名義変更の手続きが面倒だから」、「名義変更の登記にお金がかかるから」、「相続登記は義務ではないから・期限がないから」、「今までとお変わらず母が住むし、父の名義のままにしよう。」です。しかし、必要な名義変更を速やかにしておかなければ、大きなトラブルにつながったり、リスクが発生する可能性があります。

名義変更が必要な主な遺産
・不動産(土地、建物、借地権、借家権など)
・有価証券(株式、出資金、公債、社債、投資信託など)
・預貯金
・自動車
・ゴルフ会員権など

不動産の名義変更(相続登記)をしないことで、起こりうるトラブル・リスク

不動産を相続する場合は、管轄する法務局で「相続による所有権移転登記」、いわゆる相続登記を行います。相続登記をしないことで起こりうるトラブルやリスクは以下の例です。
・不動産の担保設定や売却をすることができない
・他の相続人の債権者に持ち分を差し押さえられる可能性がある(第三者に権利を主張することができない。)
・新たな相続が起こったときに混乱する
・費用が2倍かかる
・不動産を売却することができない

有価証券の名義変更をしないことで、起こりうるトラブル・リスク

株式を相続した人は、亡くなった方に代わり、株主となります。しかし、株式を相続したにも関わらず、名義変更(正しくは、「名義書換」といいます。)をせずに放置していると、配当の支払いや株主優待を受けたり、株主総会に参加したりすることが、できない場合があります。
また、長らく株主が所在不明の状態が続いた場合、会社は、一定の条件を満たす所在不明の株主の株式について、競売などの方法で売却するか、会社が買い取るなどの方法で、株主の地位を失わせることができます。
有価証券には、証券会社が管理している有価証券、個人で管理していた有価証券、自社株といった複数の種類がありますので、相続手続きを行う際には、事前に問い合わせてから名義変更(名義書換)に必要な書類を集めましょう。

預貯金の名義変更をしないことで、起こりうるトラブル・リスク

口座名義人が死亡すると、一部の相続人が勝手に預貯金を引き出したり使うことを防止するため、金融機関は預貯金口座を凍結(注1)します。遺言がある場合や遺産分割協議が済むことなどで、金融機関の相続手続きを行うことができます。預貯金の相続手続きは、名義変更ではなく、払戻しを行うことがほとんどです。この払戻の請求を銀行に行う権利は、時効により消滅する場合がありますので、相続財産と思われた預貯金の払戻ができないこともあり得ます。預金の存在が確認できる場合は、銀行が消滅時効を主張することを控え、払戻に応じてくれることが多いですが、法的に、銀行が支払いを拒絶することが可能です。
注1:民法の改正により、各相続人は単独で一定額、預貯金の払戻を受けることができるようになりました。
一定額=相続開始時の預貯金債権の額(口座ごと)×1/3×法定相続分 但し、金融機関ごとに上限は150万円

自動車の名義変更をしないことで、起こりうるトラブル・リスク

自動車は、亡くなられた方の名義のまま、売却・廃車にすることはできませんので、相続することになった相続人の名義にする必要があります。自動車の相続手続きを後回しにしているときによく起こりうることは、駐車場代が思いの外高かったということです。駐車場代が思いがけずかさんでいる場合でも、相続人が負担することになるので売却や廃車をお考えの場合は、相続手続きは早めにしてほいた方がよいです。

名義変更を行うのに必要な書類

名義や登記を変更するには、必要な書類があります。財産の種類や、手続きをする機関により必要書類は異なり、不備があると対応してもらえないことも多いので、事前に確認をしましょう。

よくある事例

(リンク)
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最後に

やるべきことを先送りするほど、様々なトラブルやリスクが高まります。
故人が残してくれた財産ですから、複雑な相続手続きになる前に、きちんと相続手続きをしましょう。
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