遺産分割調停とは

遺産分割調停とは、故人が残した遺産を遺族間でどのように分けるかを巡って、親族間で意見の対立(分配について合意ができず、話し合いが難航する場合)がある場面において、家庭裁判所に調停の申立てを行い、調停委員が双方の主張を聞きながら、円満な解決を目指す制度です。調停委員は、法律の専門知識を持つ弁護士や家庭裁判所の職員で構成され、相続人間の意見の調整や解決策の提案を行います。調停が成立すれば、その内容に基づいて遺産分割が行われます。

遺産分割調停の基本知識

遺産分割調停を始めるには、まず家庭裁判所に申し立てることから始まります。この手続きは、相続人の一人でも行うことが可能であり、相続人全員が同意する必要はありません。調停が開始されると、裁判所から調停委員が選任され、双方の主張や具体的な遺産状況を確認した上で、話し合いが進められます。遺産分割調停では、普通の裁判と異なり、和やかな場を提供するよう努められており、双方に無理なく納得のいく解決を目指します。調停では金融資産の分配だけでなく、不動産や家財道具、愛着ある品々についても詳細に議論されます。

いつ遺産分割調停を申し立てるか

遺産分割調停を申し立てるタイミングは、相続発生後であれば原則いつでも可能です。ただし、遺族間で感情的な対立が深まる前に手続きを始めるや、不動産などの価値が変動する可能性がある資産を抱えている場合には、早めに行動することが重要です。また、相続人が誰か亡くなった後に海外に移住しようとするなど、何らかの事情で一部の相続人が連絡を取りにくくなりそうなケースでは、そうした事態を避けるためにも、早期に調停を検討することが望ましいでしょう。時間が経つと遺産の管理が難しくなることも多いため、早ければ早いほど円滑な遺産分割につながることが期待されます。

調停のメリットとデメリット

遺産分割調停にはいくつかのメリットとデメリットが存在します。メリットとしては、まず、公正中立な立場の第三者が介入することで、感情的になりがちな遺産分割の場を穏やかに進められる点です。また、裁判よりも迅速に手続きが進むこと、費用が比較的安く済むことも挙げられます。一方で、デメリットとしては、合意に至らない場合、調停が不成立となり審判に移行する可能性があることです。また、調停中も遺産の管理・利用が難しくなることもあり得るため、その間の生活や資産状況に影響が出ることも考えられます。調停を有効活用するには、これらのメリットとデメリットを十分に理解した上で、適切なタイミングで進めることが重要になります。

調停申立前の準備

調停を申し立てる前には、慎重な準備が欠かせません。必要書類の揃え方から相続人の確定、遺産目録の作成まで手順を踏まえた計画的な準備をすることが成功への近道となります。何をどのように準備するかを確認することがスムーズな調停手続きを進めるためには重要なポイントとなるのです。

必要書類と事前準備

調停をスムーズに進めるためには、完全な書類の準備が必要不可欠です。重要な書類には、被相続人の戸籍謄本や除籍謄本、相続関係を証明するための親族関係の証明書、さらには不動産登記簿謄本、金融資産の残高証明書や取引履歴などがあります。これらの書類を収集するには時間がかかることも考慮し、早めに準備に取り掛かることが大切です。また、これらの書類には有効期限があるため、最新の情報を保持しておくことが必要です。すべての書類が揃った後、各書類の内容を確認し、調停申立てに必要な情報を精査しましょう。

相続人の確定方法

相続人を確定するには、まず被相続人の戸籍謄本、除籍謄本を取得し、そこに記載されている親族の状況を確認します。相続人としての権利を持つ人が現れたら、相続関係証明書を用いてその権利関係を明らかにすることが重要です。ここで留意すべきなのは、法定相続情報一覧図があれば相続関係の確認がより明確に行えるでしょう。

「法定相続情報証明制度」について

法務局ウェブサイト

遺産の目録作成のポイント

遺産分割調停で使用する遺産目録の雛形は、申立を行う家庭裁判所の書式があるので、ウェブサイトからダウンロードします。
そして、遺産目録を作成する際には、被相続人の財産を全て把握し、詳細に記録しておくことが重要です。まずは不動産、預貯金、株式などの資産だけでなく、借金や負債も忘れずに記載する必要があります。また、資産の時価を調査し、現在の市場価値を反映させることも大事です。これには鑑定評価を利用することが一つの方法になります。さらに、遺産分割協議書には全相続人の同意が必要になるため、公平な目録作成が望まれます。明確で理解しやすい目録は、後の遺産分割の過程を円滑にするための基盤となります。

調停申立ての具体的な手続き

調停を申し立てる際には、具体的な手続きを正しく理解することが大切です。調停申し立てに必要な雛形は、申立てを行う家庭裁判所のウェブサイトに雛形がありますので、ダウンロードして作成し、必要書類を添えて提出することからスタートします。このプロセスは、法的な紛争を解決する重要な一歩であり、申立ての内容や書類が適切に整えられていないと、調停が始まる前に時間を無駄にすることにもなりかねません。

申立てに必要な書類とその書き方

申立てを行うにあたっては、まず、当事者の基本情報を記載した「調停申立書」が必要です。これに加え、問題となっている事実や要求する事項を明記した「申立に至る経緯」「事情説明書」、そして証拠となる書類を準備します。それぞれの書類は、事実関係を明確にし、誤解の余地を残さないように慎重に作成されなければならないでしょう。例えば、調停申立書には、申立人と相手方の住所、氏名がはっきりと記され、相手方との関係性や紛争の概要が簡潔に述べられています。それに、「申立に至る経緯」「事情説明書」には紛争の具体的な経緯や証拠に基づく主張が詳しく記され、事実との照らし合わせが重要となります。書類作成は、調停をスムーズに進めるための大切な過程ですから、注意深く、丁寧な作業が求められます。
「申立に至る経緯」や「事情説明書」には、感情的なことを書くと、事実関係が分かりづらくなりますので、明確にかつ簡潔に記すことが重要です。

申立て先の家庭裁判所とは

原則として、遺産分割調停の申立ては、住所地の家庭裁判所が管轄となります。相手方が複数いる場合は、そのうちの一人の住所地の家庭裁判所の管轄に申し立てを行います。

申立から受理までの期間

調停申立てが受理されるまでの期間は、提出先の家庭裁判所により異なります。調停申立書が家庭裁判所で受理され、具体的な事件番号が決まり、家庭裁判所で申し立て内容が精査され、初回の調停日時や流れについての連絡があります。その後、家庭裁判所から相手方に対して調停が申し立てられた旨の通知がされることになります。

調停の流れと進め方

調停は、紛争を訴訟外で解決する手段の一つです。

調停の進行

調停では、当事者はお互いの主張と希望する解決策を明らかにします。調停委員が中立的な立場から、当事者の意見を聞き、紛争の解決を促します。

当事者の意見調整の進め方

意見調整の過程では、当事者双方が理解し合い、受け入れ可能な提案に到達することが重要です。このためには、まず各当事者の歩み寄りができるポイントを見極めることが肝心です。意見の食い違いが大きい場合、まずは小さな共通点を見つけ、そこから相互理解を深めていく方法が有効です。調停委員は、立場や感情を尊重しながらも、現実的で実現可能な案を提案し、当事者がそれを受け入れやすいよう段階的に導いていく必要があります。時には直接対話が難しい場合もありますが、そうした時は書面による意思の疎通や、当事者が別室で待機する間に調停委員が仲介する間接的な交渉が役立ちます。

調停成立後の手続き

調停が成立すると、調停調書が作成されます。調停調書には、調停でまとまった具体的な遺産分割の内容が記載されていますので、相続人はこの調書を受け取り(家庭裁判所に申請して謄本を受け取る)内容の確認を行います。

調停調書の内容と効力

調停調書とは、調停の結果、合意した内容を記載した公的な文書です。この調書は、裁判所における調停の成立を証明する重要なものであり、裁判所から交付された調書には実質的な強制力が認められます。具体的には、当事者間の取り決めが法的な拘束力を持ち、例えば金銭の支払いなどの合意が守られない場合には、この調書を持って強制執行を行うことができるのです。

調書の内容には、合意に達した具体的な事項が詳細に記載されます。それには、当事者の氏名や住所、合意内容、分割する遺産の明細、履行の方法や期日などが含まれることが一般的です。当事者は、この調書に基づいて取り決められた通りに行動をおこなう義務があります。

合意内容の履行と遺産の分配

調停により遺産分割の合意が成立した後は、その履行が大切です。

  • 不動産の名義変更:調停によって不動産が相続人の一人に割り当てられた場合、その相続人は地方自治体の法務局に行き、不動産の名義変更登記を行います。なお、名義変更を行わないと、将来的に売却や贈与などを行う際に問題が生じますので、登記の専門家である司法書士に相談し、確実に登記手続きを行うことがおすすめです。
  • 銀行口座や証券口座の名義変更解約手続き:金融資産が割り当てられた場合、関連する銀行や証券会社に連絡し、口座の名義変更または解約手続きを行います。
  • その他の資産の移転:車や株式など、その他の資産についても、必要に応じて所有権移転の手続きを行います。
  • 税務申告:相続税の申告がまだの場合、遺産分割の結果に基づいて相続税の申告を行う必要があります。すでに申告している場合(未分割申告など)でも、遺産分割の結果によっては更正の申告が必要になることもあります。なお、相続税は、遺産の価値や相続人の数、法定相続分などによって異なります。税金の計算や申告が複雑な場合も多く、税理士による正確な評価をしてもらうことが望ましいでしょう。

調停で合意に至らない場合

審判へ移行

遺産分割調停が不成立となると、自動的に審判に移行します。(調停期日で、調停が不成立となったことと合わせて、審判手続きに移行することが確認されます。)

第1回の審判期日までに相続人の主張書面の提出を求められることになりますので、必要な資料・主張書面を準備します。

審判期日開始

審判期日は、調停期日とは異なり話し合いの場ではありませんので、調停にはいた調停委員も参加しません。
第1回の審判期日では、基本的に裁判官が当事者に対して直接疑問点を質問をすることになります。
その後、何回か審判期日が行われることになります。

なお、審判期日の中で、裁判官が話し合いで解決ができそうであると考えれば、裁判官が和解案を提示することもあります。

審判

何回か審判期日が行われ、最終的に裁判官が審判をくだします。その審判の内容は審判書に記載され、審判書には裁判官が指定する遺産分割方法や、なぜその分割方法とされたのか理由が書いてあります。

審判の内容に不服があれば、2週間以内に「即時抗告」を申し立てることができます。即時抗告がなければ、審判の内容が確定し、当該内容に従って遺産分割を行います。

弁護士が必要になる理由

遺産分割調停は、弁護士に依頼せずとも相続人本人で行うことも可能です。
しかし、経験上、調停申立てを行う前から弁護士を入れておくことが最終的にメリットが大きくなることの方が多いと考えられます。

弁護士に依頼するメリット

まず最初に、弁護士に依頼するにしても、相続分野を専門的に取り扱っている弁護士に相談をすることが重要です。あまり相続案件を扱っていない弁護士に依頼しても、納得のいく解決に至ることは困難な場合が多いでしょう。相続に精通した弁護士に相談、依頼することで、自分で取り組むよりも納得のできる解決が得られる可能性が大きくなります。

そして弁護士に依頼するメリットは、弁護士あなたの代理人として他の相続人との間に入ることで、①相手の無理やりな主張に翻弄されず、②他の相続人と相続について直接のやり取りをしなくて済むことからストレスの軽減が期待でき、③相続人同士では話し合いが進まかった協議も、弁護士が適切な進行を促すことで、相続人間のみで進めるよりも早期に解決することが期待できます。

調停手続きにかかる費用

調停手続きに必要な費用は、弁護士費用(着手金、追加着手金、報酬金など)と実費があげられます。
また、不動産や株式の時価額に争いがある場合で、専門家(不動産鑑定士や税理士など)の協力が必要になる場合には、その費用が必要になってくることもあります。

弁護士法人アジア総合法律事務所の相続料金表

最後に

弁護士法人アジア総合法律事務所では、相続専門の弁護士が遺産分割調停で手続き代理人となり調停に出席します。適切な手続きを通じて公平な遺産分割を目指し、家族間の紛争を円滑に解決するために日々研鑽しております。相続問題は感情的にも複雑なものですが、専門の弁護士に相談することで、法的にも精神的にも納得のいく解決ができるように努めています。

投稿者プロフィール

小山 好文 弁護士
小山 好文 弁護士
相続問題を迅速・丁寧に解決する小山好文弁護士。お客様の悩みを法律の知識で明確に解消し、安心を提供します。